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熊本家庭裁判所 昭和41年(家)945号 審判 1966年12月27日

申立人 原田誠二(仮名)

相手方 杉山タミ子(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一、申立の要旨

申立人は「昭和三八年七月二〇日協議離婚した申立人と相手方との間において別紙第一乃至第三物件目録記載の物件に関する財産分与の協議が調わないので協議に代る処分を求める」旨申立て、その理由として、

(1)  申立人と相手方とは昭和一四年五月二五日婚姻し、同三八年七月二〇日協議離婚した。

(2)  上記協議離婚については、それより以前相手方は申立人を相手取つて熊本家庭裁判所に離婚ならびに財産分与の調停申立があつたが財産分与の点で協議が成立しなかつたため調停不調となり、相手方は昭和三七年六月二五日熊本地方裁判所に離婚等請求の訴を提起したが、離婚につき協議成立し、財産分与の点については協議が成立しないので訴を取下げた経緯がある。

(3)  申立人としては別紙第一乃至第三物件目録記載(以下単に第一物件、第三物件と略称する)の全財産中約半分の第二物件のみを離婚に際して相手方に分与する積りであつたところ、相手方は婚姻生活中であつた昭和三六年一〇月二七日熊本地方法務局受付第二二七三七号をもつて第一物件についても贈与を原因とする所有権移転登記を了しており、これを自己の所有であると称し、上記土地を現に耕作している申立人に対し占有保持の訴(熊本簡易裁判所昭和三九年(ハ)第二三一号)を提起してきた。

(4)  申立人は前記第一物件の不動産については、婚姻生活中贈与の意思表示を相手方に対してした事実がないので直ちに前記訴訟において該物件の所有権移転登記抹消登記請求の反訴を提起したのであるが、昭和四〇年四月二三日反訴請求棄却の判決があり、申立人はこれを不服として控訴(熊本地方裁判所昭和三九年(レ)第三四号)したが、昭和四一年九月二六日控訴棄却の判決があり、同判決は同月三〇日申立人に送達された。

(5)  申立人としては勿論上記判決に不服であるが、これに従うとすると離婚に際して財産分与の請求をしなければならないのは相手方ではなく申立人の側であることが明らかとなつた。

(6)  生れてから今日に至るまで農業のみに従事し唯一の生計の手段としてきた申立人にとつて離婚により耕作地の大半を奪われるということは死の宣告に等しく、僅かに残された第三物件の土地のみでは餬口を充たすことも不可能である。

よつて、申立人は民法第七六八条第二項の規定にもとづき協議に代る処分の申立に及んだ次第である。

(7)  なお、民法第七六八条第二項但書の規定によれば、申立人には申立を提起する適格がないかのごとく思われるが、前述のとおり申立人としては第一物件(申立書に第二物件とあるのは誤記と認む)は自己の所有であることを確信し反訴を提起していた次第で、これに勝訴すれば本件申立をする必要もなかつたのであつて、前記熊本簡易裁判所に対する昭和三九年四月六日付反訴の提起は本件財産分与の申立の形を変えたものに他ならないから、同法条但書の規定には反しないものである。

と述べた。

二、相手方の答弁

相手方は、申立人の申立は理由がないから応じられない、と答えた。

三、当裁判所の判断

(一)  本件記録編綴の申立人の戸籍謄本一通、相手方と申立人間の熊本簡易裁判所昭和三八年(ハ)第八五五号土地等占有保持請求事件、同三九年(ハ)第二三一号土地所有権移転登記抹消登記手続請求反訴事件および申立人と相手方間の熊本地方裁判所昭和四〇年(レ)第三四号土地等占有保持等請求控訴事件の各判決正本、申立人および相手方に対する審問の結果(第一、二回)および相手方、申立人間の熊本家庭裁判所昭和三七年(家イ)第一四一号夫婦関係調整等調停事件ならびに同人間の昭和三八年(家イ)第三〇二号土地引渡請求等調停事件各記録を綜合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人と相手方は昭和一四年五月二五日婚姻し五女一男をもうけたが、申立人に情婦ができたことが原因で同三八年七月二〇日協議離婚し、当時未成年者であつた三女テル子五女きみ子および長男知行の親権者を母である相手方と定めたこと。

(2)  これよりさき、相手方は申立人を相手取つて昭和三七年四月一二日当庁に夫婦関係調整等調停事件を申立て、離婚、上記子らの親権者を母と定めること、申立人(夫)は養育費として子が一八歳に達するまで月額一人金五、〇〇〇円づつを相手方(妻)に支払うこと、申立人は相手方に預貯金を引渡し、慰謝料を支払うこと、第一物件中(イ)(ロ)(ハ)、第二物件中(リ)(ヌ)の各土地につき相手方の耕作権等を妨害しないこと、納屋の移築に異議を述べないこと等の調停を求めたが、上記土地以外の点で合意が調わず、相手方において昭和三七年五月一八日調停申立を取下げたこと。

(3)  ついで相手方は申立人を相手取り昭和三八年七月三〇日当庁に第一、第二物件全部の土地は申立人(夫)が相手方(妻)と婚姻中であつた昭和三六年七月二八日および同年八月二五日付をもつて相手方に贈与し、その旨の所有権移転登記手続も経ているのであるから、もはや離婚した以上、申立人は相手方が単独で上記土地を耕作することを認めること、申立人は子の養育料の支払をすることの調停を求めたが、合意が調わず相手方において訴訟で決着をつけることとして同三八年一〇月二日調停申立を取下げたこと。

(4)  そこで相手方は申立人を相手取つて熊本簡易裁判所に「被告は第一物件中(イ)乃至(ト)の各土地に立ち入つたり、原告がこれを耕作又は同地上立木を代採することを妨害してはならない」との判決を求める訴を提起したところ、申立人は相手方に対し、昭和三九年四月六日本訴物件の所有権移転登記抹消登記請求の反訴を提起したが、同裁判所は昭和四〇年四月二三日相手方の本訴請求を認容し、申立人の反訴請求を棄却する旨の判決をしたこと。

(5)  申立人は上記判決を不服として熊本地方裁判所に控訴の申立をし、第一物件中(チ)の土地についても抹消登記請求を求めたが、同裁判所は昭和四一年九月二六日申立人の請求を全部棄却する旨の判決を言渡し、同判決は同月三〇日申立人に送達され、上告なくして確定したこと。

(6)  申立人は相手方に対し昭和四一年一〇月九日熊本家庭裁判所に第一乃至第三物件につき離婚に伴う財産分与の審判申立をしたこと。

(二)  以上認定した事実によれば、申立人と相手方との協議離婚は昭和三八年七月二〇日であり、本件審判申立は同四一年一〇月九日であるから、その間三年余の歳月が経過していることが明らかである。

ところで、民法第七六八条第二項によると、財産分与の請求は離婚の時から二年以内に行使しなければならないと定め、該期間は一種の除斥期間と解されるから、申立人が本件請求までの間、請求権を保全する措置を講じたかどうかにつき考えてみるのに、一件記録を精査してもそれに該当する事実は存在しない。申立人が財産分与請求の変形だと主張する前述熊本簡裁に対する反訴提起は昭和三九年四月六日であるから、上記期間内の訴提起ではあるが、これは相手方が本訴請求において主張する第一物件の贈与契約の不存在、無効もしくは取消を原因として該物件の所有権移転登記の抹消登記を求めるもので、財産分与に関する請求とは全く異るものであるから、上記反訴提起を財産分与請求権の行使と解することはできない。よつて申立人のこの点に関する主張は独自の見解であつて当裁判所の採用しないところである。

また、申立人は第一物件は自己の所有であることを確信していたから申立人の敗訴が控訴審において確定し、その時はじめて財産分与の請求をしなければならないことを知つたというが、第一物件の所有権の帰属は、熊本簡裁で争われた他、それ以前の二度にわたる前記熊本家裁の家事調停においても紛争の対象となつていたのであるから、申立人としては訴訟の結末がつくまで拱手しないで、予備的にでも財産分与請求権を行使し、調停や審判の申立をするなどして万一の場合を慮つて権利を保全しておくべきであつた。

そうだとすれば、申立人が本件申立以前に何らの措置をも講じないでした本件申立は除斥期間後の申立として却下するのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 寺沢光子)

(物件目録省略)

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